第1回 なぜいま「未来予測」なのか?
21世紀となり、はやくも20年の年月が過ぎました。この間にもわたしたちはいくつかの大きな時代環境変化に直面しました。
グローバル環境変化は、欧米を中心とする先進諸国が成熟化を迎える一方、中国、インドなど中進国各国が急激な経済成長を果たしつつあります。マーケットの観点から見れば、今後の成長市場はアジア、アフリカ地域にシフトしていくことでしょう。CO2排出を巡る温暖化や環境問題の深刻化、地震や噴火、水害による自然災害の各国での多発、最近では新型コロナウィルスによるパンデミックなど、世界はますますグルーバル環境変化に大きく影響を受けるようになっています。
加えて、第4次産業革命と言われる技術革新も進行中です。インターネットやスマートフォンはすでに私たちの日常に欠かせないものとなりましたが、今後は、AIや自動運転、ロボット技術、宇宙開発などが実用段階に入ることで、これからの生活環境には一段と大きな変化が訪れるかもしれません。2045年には、AIが人類の知能を上回り、生物の限界を超えてシンギュラリティ に達する(レイ・カーツワイル)という予想もあります。
日本特有の急激な変化としてあげられるのが超高齢化と人口減少です。日本は2007年より人口減少フェーズに入り、今後、国内人口は毎年6〜70万人規模で減少を続けます。高齢化もさらに進展し、2030年を過ぎれば日本人の3人にひとりは65才以上社会となります。かつて日本の経済成長を下支えした国内消費の伸びは、今後は期待するのが厳しい状況です。年金、医療費を中心とした社会保障費の増大は日本経済の将来にボディブローのように影響を及ぼしてくることになるでしょう。
こうした環境変化がすでに現在起こっているわけですが、少なくとも20年前に、こうした状況の到来をきちんと予想できた人はいなかったのではないでしょうか。未来は常に不確実性に満ちたものです。しかし、だからこそ私たちは未来に備えなければならないのです。
一般に自分たちを取り巻く社会環境が不透明になり、かつ世の中の技術が急激に変化発展していくとき、この先の社会を見通したいという“未来予測ニーズ”が高まります。まさに現在はそうした時期に当たります。
過去から現在に至るまでに、何度か“未来を予測したい社会ニーズ”が高まった時期がありました。例えば、第2次産業革命まっただ中の20世紀初頭に、世界で初めて“未来”をテーマとする小説ジャンル「SF(Science Fiction)」が誕生したのは、そうした社会ニーズを反映した結果と言えます。いずれ訪れるかもしれない未来社会を空想することに当時の人々は夢中になりました。今から約半世紀前の1960年代は宇宙開発や原子力技術などの科学技術の発展を背景として再び未来ブームが訪れました。日本でもさまざまなSF小説やSF漫画が隆盛を来しました。それに加え学問として未来をきちんと予測・研究しようとする“フューチャー・スタディーズ(未来研究)”という新しい学問ジャンルが登場しました。
第4次産業革命の現在は、この流れに続く未来ブーム期です。さまざまな未来予測に関する書籍が出版されているのはその証拠でしょう。科学技術、デジタル、バイオ、ゲノム、医療、宇宙、海洋開発など多分野にわたり実現可能性の高いさまざまなテクノロジーが紹介され、新技術情報に基づいた製品や未来社会の可能性が議論されています。こうした流れの中でフューチャー・スタディーズという研究分野も人文科学の一分野としての地位を徐々に築いてきました。
現在出版されている未来予測をテーマとする多くの書籍は、「未来はこうなるかもしれない」というある種紋切り予測型の内容が中心です。予測の正確さの真偽は別として、人々の多くはそうした書籍を読み、「新しい知識を得た」というレベルの満足感で留まってしまっているのではないでしょうか。しかし、それでは折角時間をかけて読んだ知識の持ち腐れです。それだけではなく、未来に関する情報を手がかりとしながら、新たなビジネスを考えたり、社会課題解決のアイデアを考えて行きましょうというのが本連載のテーマです。
本連載では最新のテクノロジー情報などの基づく未来社会を語るのではなく、「未来を考える」ための方法論を考えます。未来予測情報に基づき、持続可能性の高い望ましい社会を実現していくために、われわれがどのようなアクションを起こさなければならないか、そして新アイデアやビジネスアイデアを生み出していく方法を考えていこうとするものです。いわば未来を活用していくための実践を目指したものです。
未来を考えることは、さまざまなアイデアを得る手がかりを提供してくれます。同時にさまざまなビジネスチャンスに関する気づきも与えてくれるはずです。社会リスクやビジネスリスクに関する予知も提供してくれるでしょう。新アイデアを考える習慣を身につけることは自身のアイディエーション力を拡げることにも繋がります。
とは言いつつも、未来の新アイデアを生み出すのはそう簡単なことではありません。しかもある程度実現可能性があるものとなると相当難易度が高くなります。本連載は成功可能性を担保するものではありませんが、どうしたら魅力的な未来の生活&ビジネスアイデアを、効果的に生み出していくための方法論を考えたいと思います。具体的には、未来を考え、新しいビジネスアイデアを得るためのさまざまメソッドを紹介して行きたいと考えています。誰もがこのツールを使えば、自らの職種や業界に関する未来を考えることができる、そのような方法論を紹介していきたいと思います。
連載第2回の次回は、まず「未来」の本質的な意味を考えてみたいとおもいます。