あえて本来のリコメンドに反対する「食わず嫌いAI」が人生の幅を拡げる
今やあらゆる商品やサービスの利用において、AIによるリコメンデーションは当たり前になってきています。商品を購入すれば、ほかにもこんなものはいかがですかと尋ねられ、動画や音楽のアプリを開けば、あなたにおすすめの動画、おすすめの音楽をいつも知らせてくれます。さらにはSNSを開くと、今、フォローしているユーザーのほかのおすすめユーザーなども知らせてくれます。インターネット上で活動する上で、ユーザーリコメンデーションとはもはや切っても切れない生活になっています。
ネット上にあるコンテンツや商品は、人間の検索の力だけでは探しきれない膨大な数であり、そこから自分の好みや必要に応じたものを取り出してくれるAIリコメンデーションは非常に有用なものです。特に動画や音楽といったエンターテイメントのサブスクリプションサービスは、使えば使うほど、自分の好みのものを的確にリコメンドしてくれるようになるので、重宝する人も多いのではないでしょうか。
しかし、リコメンデーションは、今の自分の嗜好や好みの延長上にしか発生しません。つまり「ジャズは全然聞いたことがなかったけれど、実は聞いてみたら好きになってしまった」とか、「ホラー映画は苦手だと思っていたけれど、このタイプなら平気だし面白かった」みたいな予期せぬ出会いは、リコメンデーションの中では生まれにくいのです。さらには、SNSでのユーザーのリコメンデーションに沿いすぎると、自分の意見や感覚が絶対的に正しいと思い込むエコーチェンバーの弊害もよく指摘されます。
こうしたエコーチェンバーを解消するためにAIのリコメンデーションにあえて、真逆の機能を働かせられないでしょうか。実際にニュースアプリのリコメンデーションでは、政治的なニュースを左右バランスよく提供する仕組みが搭載されています。また、SNSでフォローをするときに、あえて自分と違う意見の人や、自分と違う属性の人をフォローして、意見の中身のバランスをとる人もいるようです。
ネット上の様々なサービスが収集し分析する個人の情報は、今後より一層、深く膨大なものになっていきます。そうした中で、あえて、その本人の嗜好とは違うものをリコメンドする「食わず嫌いAI」が組み込まれていくことは、今後の多様性、ダイバーシティといった問題を解決する一助となるのではないでしょうか。