宅配からファーストフードまで、人を介する仕事はすべて「超指名制」になる
「売り子ール」というスポーツスタジアム用のネット販売サービスをご存知でしょうか。これはスタジアムで自分の席から、店内の売店の料理やビールなどを注文して自分の席まで運んでもらうサービスです。このサービスの面白い点は、メニューから商品を選ぶだけでなく、売り子さんを指定して買うこともできることです。野球やサッカーの場内観戦ファンは、なじみの売り子さんからビールを直接買うことを楽しみにしている人も多いそうで、そこに目を付けた点が非常にユニークなサービスです。
昭和の終わりくらいまでは、商品の購入は近所の馴染みの店から買うのが当たり前でした。普段の食品を購入する八百屋や魚屋のおじさん、おばさんは私たちの家族構成も知っていたし、自宅には三河屋の御用聞きが来て、お父さんが好みそうなビールやウイスキーを持ってきてくれました。しかし、現代では、コンビニやスーパー、外食、宅配など様々な場面において、対面で商品を購入し受け取る機会がありますが、そのほとんどが「誰から買う」ということを意識せずに行われています。ネット通販であれば、それはさらに大きくなり、もはや、やりとりの向こう側が人間なのかコンピューターなのかさえも、意識しなくなっています。
しかし、昨今、急速に進化しつづけているモバイルオーダーサービスによって、購買プロセスは再び、人と人を結び付けはじめているようです。モバイルオーダーの代表的サービスであるUberEatsやUberでは配達員や運転手の評価を利用者がすることで、サービスの質の向上を図っています。現状のサービスは配達員を評価するだけにとどまっていますが、どの配達員にお願いするかを指名することもできるようになるのも、十分に可能性としてあります。
モバイルオーダーサービスは、外食からスーパーの生鮮食品、宅配便など様々な人を介す分野で広がっています。これらのオーダー画面で、誰に配達してもらいたいか、誰に調理をしてもらいたいかを指名できるようになると、利用者はより、素早く品物を運んでくれる人や、より注文したものを丁寧に作ってくれる人、運転の上手な運転手などを選んでオーダーできるようになります。一方、働く人は、自分が丁寧に運んだものや、作ったものが利用者からの感謝の言葉だけでなく、正当な評価として記録されるようになります。個人情報や企業の活動情報のハードルをうまくクリアできたら、それをもって転職や就職の武器にすることもできるでしょう。企業側は誰がどのようなことで評価されているのかを適切に知り、優秀な人材を確保できるようになります。
そして、これらは買い物や宅配などの購買行動だけでなく、人を介する仕事の多くに採用されることも考えられるでしょう。個人売買のサービスでもスキルを売るものでは、すでにこういった側面がでてきています。生活が総オンライン化していく社会で、様々な仕事が「超指名制」とでもいえそうな選ばれ方をする時代は、実はかなり近くまできているのです。