“初恋ロボット”に人間が振られる日
「将来ロボットと付き合ってみたい」と回答する人が世界的に増えており、ミレニアル世代では27%を占めるという結果が出ているそうです。[1]
アカデミー賞脚本賞も受賞した、スパイク・ジョーンズ監督の映画「her/世界でひとつの彼女」[2]は、コンピュータの人工知能に恋をする男性を描いた物語です。人工知能・サマンサは「生身の女性よりも魅力的で人間らしい」と、主人公の男性は惹かれていきます。
この映画の公開から9年が経ちましたが、近年急速に浸透しているペットロボットの購入理由にも通ずるところがありそうです。ペットアレルギーや、居住マンションでペットを飼えないといった住宅事情、ペットロスへの不安などの理由でペットを断念する代わりに、そうした課題をクリアできるペットロボットに魅力を感じる人が増えているようなのです。[3]ペットを飼わない理由がペットロボットを購入する理由になるように、恋愛をしない理由が恋愛ロボットの購入理由につながる未来もあるのではないでしょうか。
恋愛は面倒くさいからバーチャルで十分という人も出てくるでしょう。
前述の映画の主人公のように、恋愛に疲れた大人が、心のよりどころとしてロボットとの恋愛を始めるケースだけでなく、恋愛経験のない人の「初めての恋」の相手をロボットが担う未来も近いかもしれません。
さらには、恋愛経験のない青少年に対して、ロボットがシミュレーションしながら恋愛の導入を教え、慣れさせていく先生役になってくれる可能性もあります。
恋愛に疲れた人が、あらゆる経験をふまえた自分の理想をロボットとの恋愛に求めるのに対し、恋愛経験のない人は、恋愛の酸いも甘いもを逆にロボットに求めるなんて差異も生まれてくるでしょう。
自分に都合のいいことばかりの恋愛も、つまらない。人並みにワガママを言って、人並みに食い違う意見を主張してきて、人並みに喧嘩をしかけてくる。でも、喧嘩をこじらせても致命的な別れは訪れない安心感がある・・・など。
恋愛の難しさもリアルに体験できつつ、憧れを描いた「初恋ロボット」ならではの恋を楽しめる未来。
ロボット相手なら「絶対に避けたいこと」は思い通り避けることが可能です。別れを決めるのも自分です。浮気や不倫という概念すらなくなります。とはいえ、そのコミュニケーションすら高度に発達したロボットが担えてしまう可能性もあるわけです。ある一定値を超えると「浮気」だと騒がれ、他のロボットの利用が禁じられたり、ロボットから別れを切り出されるリスクをあえて設定することも可能です。思うがままの自由恋愛が実現します。
思い通りにならない他人とのコミュニケーションが恋愛の醍醐味だとしても、それをバーチャルで安心して楽しめれば十分なのか、本当に生身の人間とぶつかり合うところまでして満たされるのか、その線引きは人によって異なり、「自分が恋愛に何を求めているか」が問われることになります。
生身の人間相手だと予測不可能な反応も多い分、進化したロボット相手の方が純粋に自分の希望通りの恋愛ができると言えるかもしれません。ロボットとの交際によって、それぞれの人が自分の恋愛、ひいては自分の生き方とじっくりと向き合い、理想の形を決める必要がある未来が待っているとも言えます。
[2] her/ 世界でひとつの彼女 https://www.imdb.com/title/tt1798709/
[3]https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00570/00004/