第9回 求められる幸福のアイデア
求められる幸福のアイデア
現在は第4次産業革命が進行する社会と言われています。いまの産業革命の原動力は、AI、IoT、ビッグデータ、自動運転などの領域の技術革新です。
これらの活用により今までの財やサービスの提供のあり方が抜本的に変わり経済生産性が劇的に向上する。所有や消費のあり方が変わり、従来人間が担ってきた労働や働き方が大きく変わることなどが期待されています。
こうした産業革命の進行は、いずれ私たちの生活に劇的な変化をもたらしてくれるかもしれません。しかし、この第4次産業革命という言葉に、今ひとつ心躍る気持ちになれないのは筆者だけではないでしょう。 科学技術の進歩により人類は幸福になる。こうしたテーゼは、日本が高度経済成長期にあった1960〜70年代にはあきらかに存在していました。当時の大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」は、まさに未来に対する期待を表現するものでした。「進歩」の先には「調和」がある。国際紛争も環境問題もいずれ克服可能といった半ば盲目的な科学技術に対する信頼が当時は存在していました。 しかし、成熟社会から人口縮小社会に入った日本が本当に求めている技術成果はこれだけではないでしょう。それが一体何なのかを一回わたしたちはきちんと考えてみるべきでしょう。つまり、この第4次産業革命の目指す先は、果たして本当に生産性の向上や、シェアエコノミ-の実現だけで良いのかということです。
人間や家庭に数多くのセンサーが取り付けられたIoT社会が目指すものが、ビッグデータ・エビデンスに基づいた健康寿命の延伸や、貨物の自動配達やテレワークの推進だけでいいのかどうか。いずれにしても資本主義経済下における効率性の追求という従来型の文脈の元からの脱皮が求められているのではないでしょうか。
そこで提案したいのが、家族や地域が幸せになるためのビッグデータやIoT、AIはどうあるべきかというテーマです。世代間のコミュニケーション不全が語られる昨今、親子や兄弟の不仲やコミュニケーションを豊かにするために、AIやビッグデータは何ができるでしょうか?また、失われてしまった地域のコミュニティ再生にこれら技術が果たせる役割は何でしょうか?
効率性だけではなく、人間間のコミュニケーションを豊かにするために、技術が果たすべき役割は何か。効率性オンリーではなく、親子や家族、学校、地域社会といった近隣コミュニティ内におけるコミュニケーションをスムーズにするといった社会的効用を追求するような技術革新も望まれるところです。
「未来予測×アイデア」が明るい未来を生み出す
本書を通じてわたしたちが考えたいのは、ひと言でいうと「チャーミングな未来」を見つけだすこと。いかにすれば明るい未来を築き上げることができるのか、再び私たちがわくわくすることの未来を取り戻していくこと、それを皆で考えていくための方法論です。現在の私たちが向かうべき未来とはどんな社会でしょうか?繰り返しになりますが、現在の私たちは、科学技術やテクノロジーの発達や進歩が、単純に世の中を良くするとは思えない社会に生きています。技術の発達によって得られる効能ももちろんあるでしょうが、その一方で暴走(サイバーテロ、監視社会、遺伝子組み換え.etc)にも留意を払う必要があります。現在、数多く語られているさまざまな技術発展の延長線上に存在するであろう未来社会の姿をあぶりだしつつも、実際の未来の姿はそれでだけではないことに留意を払う必要があります。言い換えれば、AIやロボット、ドローン、デジタル、ナノテクノロジー、再生医療、宇宙開発といったテクノロジ-の発展だけが未来社会を生み出すわけではありません。加えて、これらテクノロジーの変化がもたらす未来の社会を所与のように受け入れる姿も望ましいものとは言えません。
むしろ今後重要になってくるのは、こうした「演繹的に考えられる未来」に加えて、「新しく生み出す未来」を生み出していく力を持つことであるとも言えます。言い換えれば、それは自らが「未来を創造する力」と言えるものです。