【第五回】お祭りとテクノロジー
テクノロジーによるお祭り体験
市原:最終回は、お祭りへのテクノロジー活用を考えていきます。
市原:第一回で、お祭りを時間や空間を区切り、みんなで盛り上がるものと捉えました。実は、この中にも課題があると考えています。なぜなら、その場での時間の共有が必要とされることで、参加者の広がりが限られてしまうからです。そこで、映像による中継やVR映像(仮想現実に実際に入り込んだかのような体験ができる映像技術)の活用が考えられます。
市原:見せる技術には、プロジェクションマッピングやVRなどが考えられます。今後、5Gの普及やクラウド側の処理能力向上によって、多数のユーザ端末との同時並行的な情報処理が実現されるはずです。その結果、VRないしMR(現実の世界に仮想の世界を重ねて拡張する技術であるARと、VRを融合させ、よりリアルに感じることができる映像技術)がより身近になるでしょう。
澁川:それによって、空間演出も当然に大きく変わります。大規模な低遅延ストリーミングの実現で、その場にあるものを、画面上で別のものに変えることや、ないものを出現させることができるのです。
例えば、ねぶた。動きのある対象物であっても、MRなら笑顔やウインクなどの表情が作れます。さらに、その場に存在しないねぶたも創造できるのです。第四回で、ねぶた製作は作り手が限られているという話を伺いました。そうであるなら、バーチャルな空間で新しいねぶたを作り出してしまうことも、一つのアプローチになるのではないでしょうか。
市原:MRは面白いですよね。伝統を表現したリアルなものと、チャレンジするバーチャルなもの、この二つを同時に楽しめるお祭りが構想できます。その場合、バーチャル側には様々な制作チームの参加による多様性も期待できます。
市原:温まってきたところで、テクノロジーによる参加者の増加、お祭りにある時間や空間の制約からの解放を考えてみませんか。
澁川:この場合、時間をずらすからこそ得られる価値が必要です。現在は同時配信で、スポーツやコンサートなどのマルチアングル映像が見られます。未来は、360度映像を、その空間をそのまま届けられるのです。そのようになれば、空間をあらゆる視点から楽しむという価値を提供できるのではないでしょうか。
市原:この先、360度映像は身近になります。ただし、それだけで参加者は増えるのでしょうか。次こそ現地に行きたいと感じる盛り上がりも必要だと考えます。
このヒントがニコニコ動画で、同サービスはコンテンツよりも視聴者が主役です。ニコ動のコメントは、コンテンツをリアルタイムに視聴していなくても、同じ時間を過ごしているような気分を演出します。360度映像も、この観客との一体感を生む演出が成功のカギなのかもしれません。野球観戦等では、時々ツボをついた野次が笑いを誘うことがあります。このような歓声の活用や作り込みが、臨場感や参加感を生むのではないでしょうか。
澁川:同じように参加感を生む手法に、フィジカルな刺激があります。私は趣味でロードバイクに乗っていますが、最近、バーチャルサイクリングが盛り上がっています。これは、室内用のロードバイクトレーナーをインターネットと接続したMMO (多人数が同時に参加できるオンラインコンテンツ) 形式のトレーニングプログラムです。実際に自転車を漕いだ負荷がゲーム内の速さに反映されますし、世界中のプレイヤーと同じコースを走って競い、楽しむことができます。
市原:フィジカルな刺激も面白いですね。このようなテクノロジーを使った疑似体験は、次回のお祭りへのプロモーションにもなります。ぜひ、積極的に取り込んでもらいたいです。
テクノロジーとお祭りの運営
市原:テクノロジー活用は、見るものに限りません。瀬戸内トリエンナーレのように会場が広域に渡ると、参加者は移動の時間管理が大切になります。しかし、このようなナビゲーション機能は、運営側にも重要なのです。混雑情報を空き施設への誘導に活用する、それに伴う受入れ側の体制準備などにも活用できます。今後、各地域のお祭りでは、高齢化等による運営人材の不足が懸念されます。これを補うため、複数のお祭りやイベントの同日開催は十分あり得る話なのです。
加藤:フェス系の行列のできる大規模イベントでもありがたいですね。
市原:そうですね。その他にも、お祭りごとにスマートフォンアプリを作成している例があります。非常に積極的な運営だと感心する一方で、年に一回、多くても数回のお祭りの情報発信に留まるのなら、そのアプリはあまり使われません。告知ならホームページ(以下、HP)で十分です。ただ、その告知にも問題があります。お祭りの多くは自治体等のHPに掲載されています。しかし、それだけでは情報への接触者が限られます。そのためにも、お祭り情報を束ねるプラットフォーム(以下、PF)が必要なのです。
加藤:オマツリジャパンがそれを目指して進めています。
市原:期待しています。アプリの役割として、一つはお祭りも起点とするコミュニティー交流を図るものが考えられます。もちろん、運営もお祭り単位ではなく、コミュニティーとしてです。これなら、そのコミュニティーから離れた人ともつながり続けることができます。
お祭りの広域化に向けた課題
市原:お祭り情報を束ねるPFには、他にも備えてもらいたい機能があります。それは、お祭り参加に必要なトータル提案で、特にきっかけづくりと旅程管理です。
はじめに、きっかけ作りです。そもそも現状では、お祭りが余暇の選択肢に上がること自体、限られるのではないでしょうか。そこで、いつ、どこで、どんなお祭りがあるよ、車で1時間だよ、そのような推奨が、少なくとも必要です。
次に、全国からの参加を呼び掛けるなら、やはり旅程全体のサポートです。旅行の目玉がお祭りになったとしても、お祭りだけを観て帰るわけではありません。お祭りを軸に食や他の文化的資源を絡めた観光を、どのように楽しむのか、この提案が重要となるのです。
加藤:オマツリジャパンでも、現在準備中です!
村越:地域の人と交流もできると楽しいですよね。交流が生まれると、来年につながります。
市原:そうですね、多様な地域資源に触れ、コミュニティーなどとの関係性が芽生えなければ、次回の訪問には中々つながりにくいのではないでしょうか。
マーケティングの視点考えると、まだまだお祭りは、できることが数多くあります。これからも多くの関係者の方々の取組みによって、賑わいが生まれることを大いに期待しています。本日はありがとうございました。
“神幸祭 附け祭り 大鯰と要石” by 江戸村のとくぞう is licensed under CC BY-SA 4.0
★このような映像体験を、お祭りのプロモーションと捉える。
★お祭りをマーケティング視点で見直すことで、より賑わいが生まれる。
(「未来のお祭りを考える座談会」完)