【第一回】お祭りはイノベーション

はじめに

「未来座談会シリーズ」は、身近なモノやコトをテーマに、それらの未来がどうなるのか、その可能性を、未来予測支援ラボ研究員がゲストメンバーを交え、自由闊達に議論する座談会企画です。
第一回のテーマは「お祭り」です。そもそもお祭りとは何か?定義に始まり、現在のお祭りが持つ課題や、解決方法、その未来の可能性について議論してまいります。

参加者紹介

市原敬哲(司会・未来予測支援ラボ研究員):娘(1歳児)の行動に一喜一憂・溺愛中
村越力(同研究員):日本の伝統文化などに造詣が深い
澁川修一(同研究員):ネット黎明期からの掲示板ユーザ、無類のサッカー好き

<ゲストメンバー>

ワッショイ黄太郎さん:日本全国の参加型祭りを攻める週末お祭りハンター
加藤優子さんオマツリジャパン):「祭りで日本を盛り上げる!」を掲げる、日本初の祭りサポート会社代表

 

写真左から、ワッショイ黄太郎さん、加藤優子オマツリジャパン代表、市原研究員、村越研究員、(右上:澁川研究員)

 

お祭りの起源

市原:まず、最初に日本の祭りの起源を考えていきましょう。日本の祭り起源は、天照大神を『岩戸隠れ』から引き出すため、岩戸側で大いに盛り上がったこと、とも言われています。ここから、日本では古くから面白がること=お祭り、と捉えられていたようです。

加藤:オマツリジャパンでも、お祭りの定義を試みたことがあります。しかし、答えは出せませんでした。

一応、我々なりにお祭りの変遷は整理しています。農耕初期は五穀豊穣をお祈りするものが主流で、季節は主に春と秋で、その時点でのお祭りとは祈願への参加でした。

そこから時代が進み、奈良時代には町に人が集まるようになり、疫病が夏に流行るようになりました。これは祟りだということで、祟りを鎮める意味でのお祭りが夏に行われるようになりました。更に時代が進み近世に入ると、お祭りに賑やかしの要素が加わってきます。

このように考えると、お祭りは、当初は、地域内で「参加するもの」から、次に「見るもの」へ、そして「見せる視点」が加わって、観光資源化してきたのです。現代では、祭りは伝統的な神事から地域活性化まで、何でもお祭りとなっています。普段は物静かな我々も、お祭りの時だけは、大騒ぎするのです。

“Nada no Kenka matsuri” by Sailko is licensed under CC-BY-SA3.0

市原:かつて、村落共同体ではそれぞれの役割が与えられ、日常(ケ)の生活は、抑制されていました。地域における祭りは、この瞬間だけは自由だと、地域で公的に認められた人々の発散行事(ハレ)だったのでしょう。

村越:日本の民俗学には、中世の社会概念として’無縁’というキーワードがあります。’無縁’とは、現世のしがらみから解放され、その中では自由にやろうぜ、というものです。陸と海の境となる浜辺や人々と神々とのご縁をつなぐ神社など、場所を限定し、期間も区切り、立場や役割もなしよと、様々なものが自由に取引されたようです。そこが、ハレとしての祭りの場に選ばれていったのではないでしょうか。

また、お祭りでは、’連歌’なども開催されたようです。’連歌’とは、詠まれた歌に人々が自由に歌を連ねていくものですが、ある意味人々の参加により、新しいものを生み出す所作は、現在のオープン・イノベーションにも似ています。しがらみから解放され自由に発想し、行動する場、それがお祭りだったとも言えるでしょう。

市原:お祭りがイノベーションの場、という発想は面白いですね。

現代のイベントとお祭り

市原:では次に、どのようなイベントがお祭りとなるのかを考えていきます。例えば、サッカーAマッチは大いに盛り上がっています。これはお祭りでしょうか。

澁川:ヨーロッパでは、サッカーを始めスポーツイベントはお祭りです。

黄太郎:ヨーロッパサッカーでは、フーリガンが騒ぎ、周囲のものを損壊する話も聞きます。これはどうでしょうか。

“gegen Offenbach, August 2009” by Heptagon is licensed under CC-BY-SA3.0

澁川:当時のイギリスは不況で、サッカーは、フラストレーションのはけ口だったのです。また、スタジアムも立ち見席が主流で、ファン同士の衝突を生みやすい環境もありました。これらが重なって、不幸な事故が起きます。85年、89年と事故が続き、この環境を一変させるべく、プレミアリーグが設立されたのです。

プレミアリーグは、スタジアムの立見席を廃止し、椅子席への改装から着手しました。次は、チケットの値段をフーリガンが購入しづらい価格に設定すると共に、試合開始時間を日中へと変更したのです。これは、飲酒の影響を抑制する目的もありますが、女性や子供が観戦しやすい環境作りの一環です。加えて、スタジアム内外で監視カメラも設置も進んだことで、フーリガン問題は、ある程度の解決を見ています。

一方、現在のプレミアリーグは海外選手が多く、地元のお祭りからは乖離しています。そこで、地元出身の選手の枠を作るなど、地元とのつながり、地元を盛りあげる発想に回帰し、改善を続けています。

市原:参加してもらいたいターゲットを設定し、スタジアムなどの空間や時間といった仕組みを変更したというのは、まさにマーケティングですね。またフーリガンのような騒動が、規制ではなく、環境や運用の工夫で解決に向かったことは、有用な情報です。

澁川:フーリガンもそうですが、土着的なものは閉鎖的になりやすいため、バランスが重要です。サッカーで言えば、ゴール裏のコアな集団(族)に属するには100種類の応援歌覚えなければ入れません。同様に、地域の族に入るためにもルールはあります。これらルールは地域の規範としても機能します。お祭りなどは、若者を巻き込み、地域の構成員としての意識付けに活用されていたのです。

市原:現代のイベントもお祭りといえるが、時に行き過ぎも起きてしまう。しかし、それも環境作り等で解決の可能性がある。また、そもそもお祭りなどは、密接なコミュニティー(族)作りに寄与することなどが見えてきました。

企業の販促活動とお祭り

市原:加藤さんにお伺いしいたのですが、オマツリジャパンのホームページでは、企業の販促活動などはお祭りとしては取り上げられていません。しかし、山崎製パンの「春のパンまつり」は、ユーザがSNSなどで自主的に盛り上がっています。他にも、プロ野球などの優勝記念セールや福袋なども同様です。これらはお祭りでしょうか。

加藤:オマツリジャパンのサイトで扱う対象ではありませんが、これらもお祭りだと考えています。いろいろなお祭りがあって良いのです。

澁川:最近も、QRコード決済サービスで、お祭りが開催されていますね。

加藤:お祭りは、当初は、祭敬などから始まりましたが、現在では、人が集まる場所、たくさん物が売っている場所など、多様な意味・文脈が増えています。

市原:情熱と行動がイノベーションにつながるように、面白がる参加者が存在し、イベントや企業活動も取り込んでしまうエネルギーが、お祭りという定義の中に含まれてきた、ということですね。

お祭りとは
★時間や空間を区切り、みんなで盛り上がるもの
★そのため、面白がる参加者と、対象があれば、全てお祭りに変わる
★お祭りは、コミュニティー作りに寄与する
★お祭りは、イノベーションにも通じるものがある

 (第一回了:第二回は「お祭りとイニシエーション」)

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