ソーシャル身代わり
ネットでの中傷は時には自殺といった痛ましい事態にも発展し、大きな社会的な問題となっています。2022年3月8日、日本政府は、インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷を抑止するための「侮辱罪」厳罰化や、懲役刑と禁錮刑を一本化した拘禁刑の創設を盛り込んだ刑法など関連法の改正案を閣議決定しました。
ネットは便利で楽しいものです。しかし不特定多数の人が接触する環境で、自分に悪意はなくても自分の発言や行動が誰かの負の感情を引き起こす可能性は常にあります。過度な自己主張、自己表現には一定のリスクが伴うことを理解しておく必要があるでしょう。
テクノロジーの発展で、XRを活用したメタバースなど、SNSの枠を超えてオンライン上の人間交流はますます拡大していくことでしょう。未来社会で、オンラインでの炎上や中傷されるリスクを最小化する「ソーシャル身代わり」が、必須のサービスとして普及しているかもしれません。
「ソーシャル身代わり」とは、オンライン上に生身の自分を直接さらさない一種のフィルター機能を持ったアバターです。自分の発言や行動は、「ソーシャル身代わり」のフィルターを通ると、TPOや相手に合わせてよりリスクの少ない形に変換されて出力されます。外見も名前も、その時々の流行ファッションから過度に逸脱しないよう調整されます。
万が一、炎上してしまっても安心です。「ソーシャル身代わり」は自分の分身ではありますが、自分そのものではないので、炎上の対象となった「ソーシャル身代わり」は破棄して、別のソーシャル身代わりで、ネット生活を送れば良いのです。誰かの不幸な出来事を引き受けて壊れてしまう昔話の「身代わり地蔵」のデジタル版といったところです。
未来のオンライン社会では、個人が様々な「ソーシャル身代わり」を立てて、ネット社会の危険度に合わせて使い分けるのが常識となっています。初対面の人が多い未知のコミュニティでは分厚いフィルターをもったソーシャル身代わり。親しい友人同士のコミュニティでは。より生身の自分に近いソーシャル身代わりをといった具合です。
現代のトレンドの一つで「量産型女子」が話題となりました。彼女たちは、悪目立ちしないよう、流行に合わせた似たようなファッションを好む特徴があります。無個性の代名詞のように呼ばれこともありますが、「量産型女子」は、これからの社会を安全に生きていくために「ソーシャル身代わり」を先駆けて実践しているクレバーな人たちなのかもしれません。