「コネクテッド万年筆」身体感覚の減少がもたらす道具の再生

キーボードで文章を書くことが普通となり、いざ手書きで漢字を書く段になると苦労させられます。筆者の場合、不思議なことに、鉛筆で書くのと、ボールペンで書くのでは、鉛筆で書く方がスルスルと漢字を思い出して書くこと出来ます。 

鉛筆の芯がざらざらした紙にかすかに引っかかる感触が、私の場合、小学生のころ繰り返し練習した漢字の書き取りの感覚を思い出させるかもしれません。しばらく運転をしていなくても、レンタカーを借りてハンドルを握ると勝手に体が動いて車を動かせるなんて体験を持つ人も多いでしょう。 

鉛筆にせよ、自動車にせよ、道具とは、単純な便益提供ではなく、インタフェースを通じた感覚のフィードバック「入力」を通じ、人間の内面にも変化を与え、「出力」にも影響を与える性質をもっていると言えそうです。 

フランスの哲学者ベルグソンは、先史時代から人間の特徴は“道具をつくる道具を製作し、そしてその製作に果てしなく変化をこらす能力”とし、人間を「ホモ・ファーベル(工作人)」と捉えました。見方を変えると、人間とは道具を通じて外界とコミュニケーションし、何かを生み出す「出力」する生き物と言えるでしょう。 

ソサエティ5.0の様なIoT社会において、音声インタフェースが普及し、もっと言えばデータ解析によるリコメンドにより自分の意志を表明することすら不要となっているかもしれません。いずれしろ、便利さと引き換えに、道具を通じて得られる身体感覚のフィードバック「入力」はどんどん少なくなっていくことでしょう。 

こんな、道具によるフィードバック「入力」が減少によって、人間からの「出力」もまた同時に減少していくのではないかと私は危惧します。利便性と同時に、人間の「出力」をより高めるための豊かな身体的感覚がえられる新しい「道具」の開発は期待されます。 

例えば万年筆。コストや機能においては、とっくの昔にボールペンに駆逐されてしかるべき存在でが、少数ながら根強いファンに支えられています。持ったときの感覚、書き味、デザイン、経年による風合い変化といった使用時の豊かなフィードバックによって、書く悦びを体験できることがその理由でしょう。 

万年筆で手書きしたメモや図表・イラストが、風合いある手書きのニュアンスを残しつつ、即座にデータ化して再構成されるなど、万年筆の美質はそのままに、コネクテッドされた環境での利便性を高めることで「出力」する悦びのある新しい道具に生まれ変わります。 

リュックに背負ってノートパソコンを持ち歩くのが現代のビジネスマンの定型スタイルですが、未来においては、昔のように万年筆一本を胸中にさして、ビジネスマンがスマートに街を歩く姿が見られかもしれません。 

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