IoT社会では、忖度(ソンタク)の広告から啐啄(ソッタク)の広告に

デジタル広告の世界では、ウェブ閲覧履歴から人々の興味関心にあった広告を露出するターゲティング広告は、自社の商品に親和性の高いターゲット(消費者)を選んで無駄の少ないマーケティング活動が行うことができます。 

 いわば、過去のデータをもとに、人々の欲しがるものを推測し、購入意向を諮る、「忖度」のマーケティングと言えましょう。今後のIoT社会の発展により、生活のあらゆる場面で行動データは採取され、膨大なデータをAIに読み込ませることで、より高い精度で消費者のニーズを「忖度」することができるでしょう。 

 一方で、「忖度」の進展にも一定の限界があると考えられます。 

 「忖度」が機能するには、時間は過去から未来へ一方向で流れ、現在は過去の積み重ね形成されているということが前提です。地球の温度変化、人口動態などは、過去のデータから統計的に確からしい推計が可能ですが、はたして人の心はどうでしょう? 

 いかにビッグデータを統計的に解析しても、変化し続ける人間にとって、提案される商品が今の気分に合わない、新しい着想や興味に合致しないケースは存在し続けるでしょう。 

 IoT環境においては「忖度」(ソンタク)ではなく、瞬間々々のその人の気持ちを捉える「啐啄」(ソッタク)の広告の重要性が高まっていくでしょう。 

 「啐啄」とは、「啐啄同時」とも言い、雛ひながかえろうとするとき、雛が内からつつくのを「啐」まさにその時に、同時に母鳥が外からつつく「啄」様を表わします。禅で、師家と修行者との呼吸がぴったり合い、弟子が悟りを開くための絶好の好機を意味します。


 
ターゲティング広告(忖度)の精度がいかに高まったとしても、消費者(雛)が外の世界に視野をひらこうとしていなければ、商品への興味(悟り)を喚起することはできません。

 消費者と企業が「啐啄」の関係になり、新しい気づきを与える創発行為の中にこそ、IoT時代の広告のヒントがあるのではないでしょうか。

 グーグルは今年114日、個人ユーザーのネット閲覧履歴データの外部提供を2022年までに取りやめると公表しました。個人データ商業活用への社会的な懸念が高まったことへ対応と考えられます。今後、ターゲティングによる「忖度」に、過度な期待を持つことは出来ないでしょう。

 人々の視線が新しい世界に向かい、新しい気づきを得る「啐啄」の広告とはいかなるものか、広告に携わる者は、改めて考えるべきではないでしょうか? 

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